自民党の経済公約「GDP1000兆円」「年収100万円増」の妥当性評価
現在(2025年)の名目GDP: 約625兆円(内閣府、2025年1-3月期年率換算値)
現在(2025年)の平均年収: 約460万円(国税庁、2023年分民間給与実態統計調査等を参考)
維持されるインフレ率: 3.5%(総務省統計局、2025年5月分消費者物価指数 前年同月比)
公約1:2040年に名目GDP 1000兆円
2025年の名目GDP約625兆円を2040年までの15年間で1000兆円に引き上げるには、年平均で約3.18%の名目GDP成長率が毎年必要になります。
計算式:
$$\left( \frac{1000兆円}{625兆円} \right)^{\frac{1}{15}} - 1 \approx 0.0318$$
名目GDP成長率は、実質的な経済の成長を示す「実質GDP成長率」と、物価の変動を示す「インフレ率」の合計で概ね表されます。
$$名目成長率 \approx 実質成長率 + インフレ率$$
今回、「インフレ率が3.5%で維持される」と仮定しているため、この目標を達成するために必要となる実質GDP成長率は以下のようになります。
$$3.18\% - 3.5\% = -0.32\%$$
この計算上は、インフレだけで目標の名目GDPに近づくため、実質成長率はマイナスでも達成可能に見えます。しかし、これはあくまで計算上の話です。
評価の妥当性
インフレ頼みの成長の危うさ: インフレ率が3.5%と高い水準で推移すれば、見かけ上のGDP(名目GDP)は膨らみます。しかし、それは経済の実質的な規模や国民の豊かさが向上したことを意味しません。むしろ、賃金の上昇が物価上昇に追いつかなければ、国民の生活は苦しくなります。
歴史的に見て高いハードル: 日本の過去の実質GDP成長率は、バブル経済期の1980年代後半ですら平均約5%でした。2000年代以降は1%前後で推移することが多く、マイナス成長の年も珍しくありません。仮に、持続可能な経済成長としてインフレ率を2%程度に抑制しつつ、国民生活の向上を伴う形で名目GDP1000兆円を目指す場合、1%〜2%程度の安定した実質成長が毎年求められます。これは、近年の日本の経済力から見れば、非常に野心的な目標と言えます。
公約2:2030年に平均年収100万円アップ
現在の平均年収約460万円を2030年までの5年間で100万円アップさせ、560万円にするためには、年平均で約4.0%の名目賃金上昇率が毎年必要となります。
計算式:
$$\left( \frac{560万円}{460万円} \right)^{\frac{1}{5}} - 1 \approx 0.040$$
妥当性の評価
名目賃金上昇率のハードル: 近年の春闘では3%台の賃上げ率が「30年ぶりの高水準」と報道されており、毎年4.0%の賃上げを5年間継続することは、企業収益の持続的な拡大や労働生産性の飛躍的な向上がなければ極めて困難な目標です。
インフレによる実質価値の目減り: 最も重要な点は、インフレ率3.5%が維持された場合、たとえ名目年収が100万円増えても、生活実感としての豊かさはほとんど向上しない、むしろ低下する可能性があることです。
2030年に受け取る名目年収560万円の価値を、現在の価値に換算(実質価値)すると以下のようになります。
計算式:
$$\frac{560万円}{(1 + 0.035)^5} \approx 471.5万円$$
つまり、5年後に年収が100万円増えて560万円になっても、その購買力は現在の約471.5万円に過ぎません。現在の460万円と比較すると、実質的な増加はわずか11.5万円程度であり、5年間での実質的な年収上昇率は年平均で約0.5%にとどまります。
もしインフレ率が賃金上昇率の4.0%を上回るような事態になれば、名目年収が増えても実質年収はマイナス、つまり生活は苦しくなるという結果になります。
総合評価
自民党が掲げるとされる2つの公約は、インフレが継続する現代の経済状況において、その数字だけを追うことの危うさを示唆しています。
「名目GDP1000兆円」は、高いインフレが続けば見かけ上の達成は不可能ではありませんが、国民の豊かさを示す実質的な経済成長を伴わなければ意味がありません。
「平均年収100万円アップ」は、それ自体が高い目標である上、物価上昇が続けば国民が豊かさを実感できる成果には繋がりにくいと言えます。
これらの公約の妥当性を高めるためには、名目上の数字の達成だけでなく、インフレを適切にコントロールし、国民一人ひとりが豊かさを実感できる「実質成長」と「実質賃金の上昇」をいかにして実現するかの具体的な道筋を示すことが不可欠です。
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