はじめに
近年、楽天グループがモバイル事業に参入し、その大規模な赤字が注目を集めています。なぜ、多大な初期投資が必要なMNO(移動体通信事業者)として、既存のNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクという強豪ひしめく市場に挑んだのか。多くの人が疑問に思うこの問いに対し、私は楽天の三木谷浩史社長が、単に国内の携帯キャリアとしての地位を確立するだけでなく、さらに壮大なグローバル戦略を描いているのではないかと考えています。
本稿では、楽天がMNOとしてモバイル事業に参入した背景にある、真の勝算を考察していきます。
早期から語られていたMNO構想
楽天がMNOとしてモバイル事業に参入する構想は、実はかなり以前から三木谷社長によって語られていました。2021年12月8日に総務省に提出された以下リンク先の資料を見ると、楽天モバイルの新規参入に関する背景、目的、戦略が詳細に説明されています。この資料からは、三木谷社長が単に国内の競争環境に参入するだけでなく、「携帯市場の民主化」を目指し、既存の携帯キャリアによる寡占状態を打破しようという強い意志が窺えます。
さらにこの資料からは、楽天モバイルが世界初の完全仮想化モバイルネットワークを構築し、設備投資・運用コストを大幅に削減することで、低価格かつ高品質なサービスを提供しようとしていたことが分かります。この革新的な技術こそが、三木谷社長が世界市場を見据える上での重要な布石だったと言えるでしょう。
国内市場は通過点? 80億人市場を見据えたグローバル戦略
三木谷社長の視線は、日本の1億人市場だけにとどまっていません。私は、楽天が当初から世界80億人の市場をターゲットに据えていたと考えています。その根拠の一つが、楽天モバイルが培ってきた革新的な技術を基盤とする「楽天シンフォニー」の存在です。
楽天シンフォニーは、楽天モバイルの完全仮想化ネットワークのノウハウと技術を基盤として、海外の通信キャリアなどに販売していくことを目的として設立されました。この事業展開は、楽天の技術が世界で通用することを証明するものであり、国内市場での成功を足がかりに、グローバル市場でのプレゼンスを高めるための重要な戦略と位置づけられます。三木谷社長は、楽天シンフォニーを通じて世界中の通信インフラを革新し、その過程で大きな収益を上げることを目指しているのではないでしょうか。
モバイルサービス開始とASTへの投資
楽天がMNOとしてのモバイルサービスを本格的に開始したのは2020年4月でした。そして、そのわずか1ヶ月前の2020年3月には、米国の衛星通信企業であるASTスペースモバイルに初期投資を行っています。このタイミングから察するに、楽天が当初から国内市場だけでなく、世界規模での通信サービス展開を視野に入れていたことの強力な証拠と言えるでしょう。
地上ネットワークだけではカバーできないエリアを、衛星通信によって補完するという構想は、日本国内だけでなく、世界中の通信インフラが未整備な地域や、災害時の通信手段の確保といったグローバルな課題に対するソリューションとなり得ます。三木谷社長は、このASTスペースモバイルへの早期投資によって、世界80億人の市場へのアクセス権を確保しようとしていたのではないでしょうか。
世界を席巻する技術プラットフォーム楽天シンフォニー
楽天シンフォニーは、単なる技術の外販に留まりません。同社は、通信事業者、企業、政府機関に対し、クラウドネイティブOpen RANのインフラ、サービス、ソリューションをグローバルに提供することに注力しています。この技術プラットフォームは、楽天モバイルが実際に運用してきた実績があり、その信頼性は高いと言えます。
三木谷社長は、この楽天シンフォニーを、世界の通信インフラ市場における主要なプレーヤーへと成長させ、その収益を国内の楽天モバイル事業の強化にも繋げていくという壮大な構想を描いているのではないでしょうか。
ASTスペースモバイルの革新性
ASTスペースモバイルの技術はまさに革新的です。同社は、既存のスマートフォンと直接通信する宇宙ベースのセルラーブロードバンドネットワークを構築しており、これにより地上基地局の有無に関わらず、地球上のどこでも4G/5Gの速度で接続を提供することを目指しています。
2025年4月には、日本国内でBlueBird Block 1衛星と未改造スマートフォンを用いた初のビデオ通話に成功しており、実現に向けて着実に準備が進んでいます。そして2026年には日本国内で「Rakuten最強衛星サービス Powered by AST SpaceMobile」として、衛星-モバイルブロードバンドサービス(音声、ビデオ、データ通信)を開始することを目指しています。
この技術が実現すれば、世界中の未接続地域に住む人々も、手持ちのスマートフォンでインターネットや通信サービスを利用できるようになります。三木谷社長は、このASTスペースモバイルの技術こそが、楽天のグローバル戦略の核心であり、世界80億人の市場を視野に入れる上での最大の武器になると考えているのではないでしょうか?
MNOとしての必然性
楽天がMVNOではなく、多大なコストをかけてMNOとして事業を展開していることは、このグローバル戦略においても重要な意味を持ちます。世界に通信サービスを売り込む際に、日本で通信サービスを展開している実績のある状態と無い状態ではどちらの方がサービスを契約しようと思うでしょうか?MNOとしての地位は、自社でネットワークを構築・運用するノウハウを蓄積することを可能にし、それは楽天シンフォニーの技術力と魅力を高める上で不可欠です。
また、楽天が所有するモバイルスペクトル、特にプラチナバンド(700MHz帯)は、ASTスペースモバイルのサービスを自社のネットワーク内にシームレスに統合し、独自のサービスとして展開するための基盤となります。このMNOとしての強固な基盤こそが、楽天が世界市場で競争優位性を確立するための重要な要素となると思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか? 楽天の三木谷社長が単に日本の携帯キャリア市場でのシェア争いに終始するのではなく、世界80億人の市場を見据え、宇宙と地上を繋ぐ壮大な通信インフラの構築を目指していることは、これまでの楽天の戦略と投資のタイミングから明らかです。
楽天シンフォニーのグローバル展開と、ASTスペースモバイルへの早期投資は、その野心的なビジョンをの足掛かりだったのだろうと思います。また、MNOとしての参入は、そのグローバル戦略を実現するための必然的なステップだったと言えるでしょう。今後の楽天グループの動向、そして三木谷社長が描く未来に、私は注目しています。
楽天三木谷社長の勝算について、あなたはどう思われますか?
今後も頑張って記事を更新していこうと思いますのでよろしくお願いいたします。
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